Q 疎遠の父が亡くなりました。相続放棄をする予定です。気を付けるべき点を教えて下さい。
A ①財産の処分をしないこと、②相続があったことを知った時から3か月以内に相続放棄の申述をすること
財産の処分をしないこと
相続財産の全部又は一部を処分すると、「単純承認」したとみなされ、相続放棄をすることができなくなります。
さらに、相続放棄をした後でも、相続財産を「消費」した場合には、単純承認をしたものとみなされるので注意が必要です。
「処分」にあたらない行為は下記のようになっています。
<処分にはあたらない事例>
・葬儀費用の支出(大阪高決平14・7・3家月55・1・82等)
・建物の応急修理などの保存行為や短期賃貸借契約の締結(602条参照,土地は5年,建物3年)は当該管理行為にあたり処分から除かれる(民法921条1号ただし書)。
・音信不通となっていた被相続人が死亡した後に、警察署から連絡を受けて、法定相続人らが、所持金2万円余と着衣等の引渡しを受け、その所持金を火葬費用の一部に充てて着衣等と遺骨を持ち帰った行為が相続財産の「処分」には該当しないとした事例(大阪高決昭54・3・22判時938・51)
・軽微な慣習上の形見分け
(法定単純承認)
第九百二十一条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
二 相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。
相続があったことを知った時から3か月以内に相続放棄の申述をすること
「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月以内に相続の放棄をしないと、単純承認したものとみなされ、以後相続放棄をすることができなくなります。
今回のケースは、子が相続放棄をするケースです。子は、第一順位の相続人ですので、父の死亡を知った時が「自己のために相続の開始があったことを知った時」にあたります。
被相続人の兄弟姉妹が相続放棄をする場合には、被相続人が死亡したことを知っただけでは、「自己のために相続の開始があったことを知った時」にはあたらない可能性があります。なぜなら、兄弟姉妹は第一順位の相続人であるとは限らないからです。被相続人に子がある場合には、第一順位の子が相続放棄をして、第二順位の被相続人の親が相続放棄をして、はじめて兄弟姉妹が相続人となります。この場合は、子、親が相続放棄をしたことを知った時が、「自己のために相続の開始があったことを知った時」となります。
被相続人の財産の状況が分からず、3か月以内に、相続放棄の申述をすべきかどうか判断できない場合は、家庭裁判所に対して期間の伸長を申し立てることができます。
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