Q 母が亡くなりました。遺産は預貯金5000万円です。相続人は、長男の私と次男の弟の二人です。弟は、無職になってから、2年間、母から毎月10万円の援助を受けていました。さらに10年前に2000万円(現在は3000万円)のマンションを買ってもらっています。弟は遺産を2分の1ずつ分けようと言っていますが、納得いきません。遺産分割調停ではどのような結果になりますか?

A マンションについては特別受益にあたると判断されると思われますが、2年間の毎月10万円の援助については、親族間の扶養的金銭援助として特別受益にあたらないと判断される可能性があります。または、持戻し免除の意思表示があったものと認められる可能性もあります。

 民法は、共同相続人間の平等を図るため、相続人に対して遺贈及び一定の生前贈与といった財産分与とみられるものがなされている場合に、その遺贈等を「特別受益」と呼び、これを遺産分割時に精算する規定を設けています。

 相続財産に、当該遺贈等の目的を加え(これを「持戻し」といいます。)、その合計額を相続財産とみなして(みなし相続財産)、これに法定相続分を乗じて、各共同相続人の具体的相続分を算出し、その際、当該遺贈等を受けた相続人については、当該遺贈等の目的の価額を控除します。

特別受益の範囲

 特別受益として持戻しの対象となる財産は、「遺贈」または「婚姻、養子縁組のための贈与」もしくは「生計の資本としての贈与」です(民法903条1項)。

①遺贈 遺贈はその目的にかかわりなく、すべて持戻しの対象となります。

②生前贈与 「婚姻、養子縁組のための贈与」「生計の資本としての贈与」がこれにあたります。「生計の資本」とは、生活の基礎となる財産をいいます。たとえば、相続人の住居建築のために土地を贈与したり、住居の建築費用を被相続人が負担したりといったことが、「生計の資本としての贈与」の典型例です。大学進学や留学など高等教育を受けた場合の費用については、必ずしも特別受益にあたるとは言えません。親としての扶養の範囲内と考えられる可能性もあります。扶養義務に基づく援助は特別受益にあたらないのです。

 東京家審平成21年1月30日では、「平成4年×月×日から平成6年×月×日までの間に一月に2万円から25万円の送金がなされているが,本件遺産総額や被相続人の収入状況からすると,一月に10万円を超える送金(平成4年×月×日12万円,同年×月12万円,×月×日60万円,平成5年×月×日10万円,同年×月22万円,同年×月25万円,同年×月×日10万円,同年×月×日25万円)は生計資本としての贈与であると認められるが,これに満たないその余の送金は親族間の扶養的金銭援助にとどまり生計資本としての贈与とは認められないと思慮する。」(被相続人の遺産総額は2億6712万4951円、この間の被相続人の給与受給額は、792万、1056万、1188万、1188万、396万)と判示しています。

 本件では、弟は、無職になっているので、月10万円程度の金銭的援助は、扶養的金銭援助として特別受益にあたらないと判断される可能性があります。

 また、被相続人が、受贈者等に特別な利益を与える趣旨で贈与等をする場合、この持戻しを免除するとの意思表示をすることができます(民法903条3項)。この持戻しの免除の意思表示は、被相続人の生前における黙示の意思表示として認定される場合が多いです。

 本件では、弟は無職となっているので、持戻し免除の意思表示があったと認定される可能性もあります。

本件の場合

 本件では、10万円×24か月=240万円については特別受益にあたらないと判断される可能性があります。

 マンションは、特別受益にあたると判断されると考えられます。特別受益の基準時は、相続開始時であるので、マンションは3000万円と評価されます。
 したがって、以下のようになります。
 みなし相続財産=5000万円+3000万円=8000万円

 一人当たりの本来の相続分=8000万円÷2=4000万円

 長男の具体的相続分=4000万円

 次男の具体的相続分=4000万円ー3000万円=1000万円

特別受益の時的制限

 令和3年の民法改正により、相続開始の時から10年を経過した後にする遺産分割協議においては、特別受益の規定は原則適用されません。

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