Q 相続が発生した場合、遺産の全てが遺産分割の対象にならないと聞きました。遺産分割の対象とならない財産について教えてください。
A 遺産分割の対象とならない財産は、①祭祀財産、②一身専属権、③金銭債権(預貯金を除く)、④金銭債務です。①と②は相続財産にそもそもなりません。③と④は、相続開始と同時に法定相続分に応じて相続人に分割して帰属するので遺産分割の対象になりません。
① 祭祀財産
系譜(家系図、過去帳等)、祭具(位牌、仏壇、神棚等)、墳墓(墓石、墓地、墓地使用権等)の「祭祀財産」の所有権は、相続人が承継するのではなく、①被相続人の指定した祖先の祭祀を主宰すべき者、②慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者、③家庭裁判所が審判によって定めた者が承継します(民法897条1項、2項)。
したがって、遺産分割の対象となりません。
② 一身専属権
相続人は、相続開始の時から被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します。しかし、被相続人の一身に属し、他人が取得または行使することができない権利(「一身専属権」といいます。)は、相続財産とはなりません。
生活保護受給権、扶養請求権、雇用契約上の労働債務などが一身専属権にあたります。
これらは、相続財産にはならないので、遺産分割の対象にはなりません。
③ 金銭債権
金銭その他の可分債権は、相続開始と同時に、法律上当然に各相続人にその相続分に応じて分割して帰属します(最判昭和28年4月8日)。 したがって、遺産分割を経るまでもなく、法定相続分に応じて帰属するので、遺産分割の対象となりません。ただし、相続人全員の明示または合意があれば遺産分割の対象とすることができます(東京家裁昭和47年11月15日審判)。
ただし、金銭債権のうち預貯金債権については、判例変更がされ、例外的に、遺産分割を経なければ払い戻しができなくなりました(最決平成28年12月19日)。預貯金は、現金と同様に遺産分割の方法を定めるにあたっての調整に資する財産であるという点などが考慮された結果です。
④ 金銭債務
相続分に応じて各共同相続人が承継します(最判昭和34年6月19日)。
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