Q 相続手続きで必要な戸籍は?
A 遺言がある場合とない場合で異なります。
遺言がない場合
遺言がない場合、法定相続人を確定させるための戸籍が必要となります。誰が法定相続人となるかによって必要な戸籍は異なります。配偶者がいる場合、配偶者は必ず法定相続人になります。子がいる場合、子が法定相続人になります。子がおらず、親・祖父母等の直系尊属がいる場合、その直系尊属が法定相続人になります。子も直系尊属もいない場合、兄弟姉妹が法定相続人になります。
上記の法定相続人を確定させるための戸籍が必要となります。まず、被相続人に子がいるかどうかを確定する必要があります。そのために、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍が必要となります。
子がいないことが確定された場合、直系尊属が存命しているか確定する必要があります。被相続人死亡時に存命しているとしたら120歳程度になると考えられる直系尊属について、存命しているか否かを確定する戸籍が必要になります。
直系尊属も存命していないことが確定された場合、兄弟姉妹が相続人となりますので、兄弟姉妹を確定させるために、父母の出生から死亡までの全ての戸籍が必要となります。
「出生から死亡までの戸籍」とは?
前記のとおり、まず、子がいるかいないかを確定するために、被相続人の出生から死亡までの戸籍は必ず必要となります。
では、出生から死亡までの戸籍とは具体的にどういうものなのでしょうか?
被相続人の死亡が記載された戸籍を取得すると、戸籍には、身分事項として「出生」「婚姻」「死亡」等の欄があり、それぞれその内容が記載されているので、「出生から死亡までの戸籍」のように見えます。しかし、そうではありません。「結婚した」「本籍地を変えた」等の戸籍編成原因があると、戸籍が新たに編成されます。新しく編成された戸籍には、古い戸籍に記載されていた事項すべてが移記されるわけではありません。例えば、被相続人甲には、子Aと子Bがいたとします。甲が本籍地を変えて新しい戸籍が編成されたとします。新しい戸籍が編成された時点で、子Aが婚姻して既に除籍となっている場合、新しい戸籍には子Aの情報は移記されません。ですので、新しい戸籍だけ眺めていては、子Aの存在が分からないということになります。
人が出生してから死亡するまで、何回か戸籍が編成されます。新戸籍が編成された時点で、除籍となっている子については新しい戸籍に移記されません。したがって、被相続人の子すべてを確認するには、出生から死亡までに編成されたすべての戸籍を取得する必要があるのです。
出生から死亡までの戸籍の集め方
令和6年3月1日から、「戸籍の広域交付制度」が開始されました。これにより、相続人は、①最寄りの市区町村の役場に行って、②コンピュータ化された以後の被相続人の戸籍を一括して取得することができるようになりました。この制度が開始される前までは、本籍地のある市区町村役場に戸籍を請求して取得するしか方法はありませんでした。ですので、被相続人の出生から死亡までの戸籍が北海道A市、北海道B市、宮城県C市、東京都江東区にある場合、A市、B市、C市、江東区のすべての役場に戸籍の請求をする必要がありました。
戸籍の広域交付制度が開始され非常に便利になりましたが、①郵送請求はできず窓口請求しかない、②コンピューター化される前の戸籍は取得できない、ということには注意が必要です。
コンピューター化される前の戸籍は、従前どおり、その戸籍がある市区町村役場に請求(郵送可)するしか取得する方法はありません。取得が面倒な場合は、司法書士や弁護士に取得を依頼するとよいでしょう。
遺言がある場合
遺言がある場合は、遺言によって指定された人が財産を承継するので、法定相続人すべてを確定する必要はありません。したがって、被相続人の出生から死亡までの戸籍は、原則として不要となります。ただし、直系尊属や、兄弟姉妹が「相続人」として財産を承継する場合には、被相続人の出生から死亡までの戸籍が必要となります。直系尊属等が「相続人」となるのは、被相続人に子がいない場合ですので、子がいないことを確定するために、被相続人の出生から死亡までの戸籍が必要となるのです。
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