Q 行方不明の相続人がいます。相続手続きはどのように進めればよいですか?
A 行方不明の相続人について、不在者財産管理人の選任の申立てをします。他の共同相続人は、不在者財産管理人と遺産分割協議をします。
不在者財産管理人とは
不在者財産管理人(民法25条1項)とは、従来の住所又は居所を去った者(不在者)がその財産の管理人を置かなかったときに、利害関係人又は検察官の請求により家庭裁判所によって選任される者です。
不在者の代理人として選任され、家庭裁判所の監督の下で不在者財産の管理業務に従事します。
(不在者の財産の管理)
第二十五条 従来の住所又は居所を去った者(以下「不在者」という。)がその財産の管理人(以下この節において単に「管理人」という。)を置かなかったときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができる。本人の不在中に管理人の権限が消滅したときも、同様とする。
2 前項の規定による命令後、本人が管理人を置いたときは、家庭裁判所は、その管理人、利害関係人又は検察官の請求により、その命令を取り消さなければならない。
不在者財産管理人の選任の申立て
利害関係人が、不在者に財産があることを前提に不在者財産管理人選任申立てをします。共同相続人は、「利害関係人」として、不在者財産管理人の選任の申立てができます。申立てには、不在者と利害関係があることを示す証拠書類を添付する必要があります。遺産分割目的の事案であれば、相続関係を示す戸籍類や相続財産を示す書類が証拠書類となります。
申立先は、不在者の従来の住所地又は居所地の家庭裁判所です。
申立てに必要な費用は、収入印紙800円分、連絡用の郵便切手です。連絡用の郵便切手は、申立てをする家庭裁判所に確認する必要があります。ちなみに、東京家庭裁判所では、不在者財産管理人選任に必要な予納郵便切手は、合計2010円(令和6年10月版予納郵便切手一覧表)です。
不在者の財産の内容から、不在者財産管理人が不在者の財産を管理するために必要な費用(不在者財産管理人に対する報酬を含む。)に不足がでる可能性がある場合には、不在者財産管理人が円滑に事務を行うことができるように、申立人に相当額を予納金として納付するように裁判所から連絡があります。予納金は、50万円前後が目安ともいわれています。
申立書には、「不在の事実があること」を示す書類も添付します。宛所なしで返送された封書、住所地の現地調査報告・写真、親族・近所などの聞取り結果、行方不明者届受理証明書(不在者が住んでいた管轄の警察署に行方不明者届を提出して、発行してもらう)などがそれにあたります。
遺産分割協議
不在者財産管理人業務の基本は保存行為を中心とする管理業務です。不在者財産管理人は、積極的に不在者の財産を処分することはありませんが、必要な場合には、権限外行為許可の申立てをして許可審判を得て、処分行為を実施します。
不在者財産管理人が、不在者に代わって遺産分割協議を成立させることは、それ自体、処分的な行為なので、家庭裁判所の許可審判が必要です。
不在者財産管理人が不在者のために遺産分割協議をする場合、不在者の利益を保護するため不利な分割は許されません。不在者財産管理人は不在者の法定相続分を遵守することを前提に協議を進めます。
法定相続分に従った遺産分割をした結果、不在者の取得する財産が、少額の現金となるような場合には、不在者が取得する財産について他の相続人が保管をし、不在者の帰来時に保管者が不在者に渡すことを約した内容の遺産分割協議を成立させることもあります。この場合、不在者が取得する財産は、他の共同相続人が保管すると決まるため、不在者財産管理人が保管する財産がなくなり、任務終了となることがあります。なお、この帰来時弁済型遺産分割協議が許されるかどうかは、実務上は、不在者が取得する現金が100万円以下かどうかが目安とされているようですが、交渉次第では300万円、500万円でもで認めてもらえることもあるようです(「弁護士のための遺産相続実務のポイント」森公任・森元もとり著・17頁)
相続開始後10年が経過している場合、行方不明の相続人の共有持分を取得や譲渡できるようになった
令和3年民法改正では、所在等不明共有者の共有持分について、他の共有者が取得すること(民法262条の2第1項)、(他の共有者の共有持分と合わせて全体で)第三者に譲渡すること(民法262条の3第1項)を裁判所に請求できるようになりました。
ただし、相続の発生により、共有となった場合には、相続開始の時から10年を経過しなければ、上記の請求はできません(民法262条の2第3項)。
ですので、相続開始の時から10年が経過していれば、不在者財産管理人を選任することなく、行方不明の相続人との不動産共有状態を解消することができます。
(所在等不明共有者の持分の取得)
第二百六十二条の二 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)の持分を取得させる旨の裁判をすることができる。この場合において、請求をした共有者が二人以上あるときは、請求をした各共有者に、所在等不明共有者の持分を、請求をした各共有者の持分の割合で按あん分してそれぞれ取得させる。
2 前項の請求があった持分に係る不動産について第二百五十八条第一項の規定による請求又は遺産の分割の請求があり、かつ、所在等不明共有者以外の共有者が前項の請求を受けた裁判所に同項の裁判をすることについて異議がある旨の届出をしたときは、裁判所は、同項の裁判をすることができない。
3 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から十年を経過していないときは、裁判所は、第一項の裁判をすることができない。
4 第一項の規定により共有者が所在等不明共有者の持分を取得したときは、所在等不明共有者は、当該共有者に対し、当該共有者が取得した持分の時価相当額の支払を請求することができる。
5 前各項の規定は、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用する。
(所在等不明共有者の持分の譲渡)
第二百六十二条の三 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)以外の共有者の全員が特定の者に対してその有する持分の全部を譲渡することを停止条件として所在等不明共有者の持分を当該特定の者に譲渡する権限を付与する旨の裁判をすることができる。
2 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から十年を経過していないときは、裁判所は、前項の裁判をすることができない。
3 第一項の裁判により付与された権限に基づき共有者が所在等不明共有者の持分を第三者に譲渡したときは、所在等不明共有者は、当該譲渡をした共有者に対し、不動産の時価相当額を所在等不明共有者の持分に応じて按分して得た額の支払を請求することができる。
4 前三項の規定は、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用する。
江東区の女性弁護士
すずらん法律事務所