Q 配偶者居住権とは何ですか?

A 配偶者が、相続開始の時点で、被相続人の財産に属した建物に居住してたときに、配偶者が死亡するまで、当該建物に居住できる権利です。

 

配偶者居住権の取得方法

 配偶者居住権は、①遺産分割、②遺贈、③死因贈与、④家庭裁判所の審判により取得できます。後妻と先妻の子が相続人となる場合で、後妻の居住を守りたい場合は、遺言によって、配偶者居住権を後妻に遺贈しておくのがよいでしょう。なお、20年以上の婚姻期間のある配偶者の場合には、配偶者居住権についても、居住用不動産の遺贈等の場合と同様に、持戻し免除の意思表示の推定によって、遺産分割における具体的相続分に含めないこととされます(民法903条4項)。

民法 e-Gov

(配偶者居住権)
第千二十八条 被相続人の配偶者(以下この章において単に「配偶者」という。)は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の全部について無償で使用及び収益をする権利(以下この章において「配偶者居住権」という。)を取得する。ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りでない。
一 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。
二 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき。
2 居住建物が配偶者の財産に属することとなった場合であっても、他の者がその共有持分を有するときは、配偶者居住権は、消滅しない。
3 第九百三条第四項の規定は、配偶者居住権の遺贈について準用する。
(審判による配偶者居住権の取得)
第千二十九条 遺産の分割の請求を受けた家庭裁判所は、次に掲げる場合に限り、配偶者が配偶者居住権を取得する旨を定めることができる。
一 共同相続人間に配偶者が配偶者居住権を取得することについて合意が成立しているとき。
二 配偶者が家庭裁判所に対して配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合において、居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき(前号に掲げる場合を除く。)。
(配偶者居住権の存続期間)
第千三十条 配偶者居住権の存続期間は、配偶者の終身の間とする。ただし、遺産の分割の協議若しくは遺言に別段の定めがあるとき、又は家庭裁判所が遺産の分割の審判において別段の定めをしたときは、その定めるところによる。
(配偶者居住権の登記等)
第千三十一条 居住建物の所有者は、配偶者(配偶者居住権を取得した配偶者に限る。以下この節において同じ。)に対し、配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負う。
2 第六百五条の規定は配偶者居住権について、第六百五条の四の規定は配偶者居住権の設定の登記を備えた場合について準用する。

配偶者居住権の評価方法

配偶者居住権の財産的価値の評価については、①不動産鑑定士による鑑定価額、②相続人との話合いで遺産分割をする場合には、法務省の公表している簡易な評価方法、③相続税における配偶者居住権の価額の評価方法、など様々なものがあります。

 ①や③の場合は、専門家に依頼することになり、費用と時間がかかりますので、法務省が公表している簡易な評価方法によれば、相続人等によって配偶者居住権の価額を推定することができます。

法務省のウェブサイト

配偶者居住権を取得したらできるだけ早く登記を!

 

 配偶者居住権の法的性質については、賃借権類似の法定の債権と位置づけられています。建物賃借権の場合、登記だけでなく、建物の引渡しも対抗要件となっています(借地借家法31条)。しかし、配偶者居住権の場合、賃借権と異なり、対抗要件は、登記のみです。なぜなら、配偶者居住権は、相続開始時に配偶者が居住建物に居住していたことがその成立要件とされていることから、居住建物の引渡しを対抗要件として認めると、建物の外観上何も変わっていないことになり、公示手段として極めて不十分なものと考えられるからです。

 居住建物について、所有権を先妻の子が取得し、配偶者居住権を後妻が取得した場合に、配偶者居住権の登記をする前に、子が不動産を第三者に売却してしまうと、配偶者は、配偶者居住権を第三者に対抗できなくなってしまいます。このような事態を回避するため、可及的速やかに配偶者居住権の登記をしましょう。

死因贈与によって配偶者居住権を取得すれば仮登記可能

 配偶者居住権の登記は、配偶者居住権を取得した配偶者と、所有権を取得した者との共同申請により行います。配偶者所有権を取得した後妻と所有権を取得した先妻の子が不仲の場合、先妻の子が、配偶者居住権の登記に協力しない場合があります。

 このようなことが想定される場合、①遺言で、遺言執行者を指定しておき、遺言執行者が配偶者居住権の登記ができるようにしておく令和2年3月30日法務省民二第324号 3(1)ア)、②仮登記ができない遺贈ではなく、仮登記可能な死因贈与によって、配偶者所有権を取得させ仮登記をしておくのどちらかの方法をとっておくのがよいでしょう。

 なお、配偶者所有権が取得できる場合として、民法1028条1項各号には死因贈与は挙げられていませんが、死因贈与については民法554条においてその性質に反しない限り遺贈に関する規定が準用されることから、民法1028条1項各号に列挙されなかったに過ぎず、死因贈与による配偶者居住権の成立を否定する趣旨ではありません。

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